今回の芸術の教養のテーマは「アート作品の「リアルさ」」について考えます。
「リアルさ」というと、いかに本物のように見せるかということがまず頭に浮かびますが、「アート作品の「リアルさ」」はもっと多様な世界を意味しています。
今回はこのことについて学んでいきましょう。
このテーマについて教えてくれるのは、末永 幸歩(すえなが ゆきほ)さん著書の「13歳からのアート思考」のCLASS2「「リアルさ」ってなんだ?」の部分です。
このCLASS2もCLASS1の「「すばらしい作品」ってどんなもの?」に引き続いて、自分の芸術作品に対する見方を広げてくれるすばらしいCLASSになっています。
それではこの部分を要約し、「アート作品の「リアルさ」」について考えていきましょう。
目次
【要約】「13歳からのアート思考」 CLASS2「「リアルさ」ってなんだ?」
パブロ・ピカソの≪アビニヨンの娘たち≫
本CLASSでは、パブロ・ピカソ(1881~1973)の≪アビニヨンの娘たち≫という作品が紹介されます。
アビニヨンとはスペインの地名で、この絵には5人の娼婦が描かれています。
≪アビニヨンの娘たち≫
1907年に発表されたこの作品に対して、現代では高い評価がなされていますが、最初は「酷い絵」だと非難されました。
ピカソがこの作品を発表したのは「カメラ」がこの世に登場した後。
「目に映る通りに描く」という従来のゴールが崩れた時代です。
ピカソはそれまで誰も疑わなかった「リアルさ」って何なのかということに疑問を持ち、自分なりの表現の完成させました。
それがこの≪アビニヨンの娘たち≫なのです。
≪アビニヨンの娘たち≫に込めたピカソの「リアルさ」
「カメラ」が登場する前の「リアルさ」とは遠近法のことでした。
つまり「『1つの視点から人間の視覚だけを使ってみた世界』こそがリアルだ」という考えです。
しかし、この遠近法にはいくつかの問題ががあります。
遠近法の問題
・描く人の視点が1点に固定されているため、「半分のリアル」しか写し出せない。
・遠近法はそもそも頼りない「人間の視覚(目の錯覚など)」に依拠している
そこで、ピカソは自分なりの「リアルさ」を追求し、「さまざまな視点から認識したものを一つの画面に再構成する」という表現をとることとしました。
もう一度≪アビニヨンの娘たち≫をみてみましょう。
以下の部分から、ピカソがこの≪アビニヨンの娘たち≫に「さまざまな視点から認識したものを一つの画面に再構成した」ことがうかがえます。
・中央の女性の目は正面を向いている。しかし、鼻は真横から見たものとなっている。また、耳は斜め横からみたものとなっている。
・絵全体における顔や体の色が突然切り替わるのは、さまざまな角度からみたものを一つの画面に組み合わせているからである。
≪アビニヨンの娘たち≫から考える多様な「リアルさ」
ピカソが生み出した「さまざまな視点から認識したものを一つの画面に再構成する」という「リアルさ」は、これまで遠近法のみが唯一の「リアルさ」とされていた常識を打ち破るものとなりました。
この作品によって、人々は「「リアルさ」には様々な表現があり、遠近法はそのうちの一つでしかない」ということに気づかされたのです。
多様な「リアルさ」を認識しよう
いかがだったでしょうか。
「リアルさ」には多様な表現があることがご理解いただけたかと思います。
本書では、実際に 筆者の 末永 幸歩(すえなが ゆきほ)さんの授業を受けた中高生の声が載っており、その声に心を動かされたため、それを紹介します。
「リアルさには『見かけのリアルさ』と『もっと踏み込んだリアルさ』があると思う。つらい出来事を経験したけれど、なにごともなかったかのように笑顔を見せているひとがいたとして、その人のリアルって、どちらなのだろう? 『見かけのリアルさ』は、視覚的なものが多い。『踏み込んだリアルさ』は、心で感じ取るようなことだと思う。」 ー「13歳からのアート思考」 P137-138より抜粋
「リアルさ」には様々なものがあることを端的に示しています。
私もこれまでは、リアルな絵とは「遠近法」によって描かれたものだと思っていました。
また、ピカソの≪アビニヨンの娘たち≫を最初に見たときは、「バランスの悪い絵だな」とか「なんでこんな色使いなのだろう」とか不思議に思うことが多く、とても優れた作品とは思えませんでした。
しかし、本CLASSを読み進めることで、ピカソが自分なりの「リアルさ」を≪アビニヨンの娘たち≫に込めたことを理解することができ、この絵に対する見方が一気に変わるとともに、絵画の面白さもわかってきたように思います。
AIで≪アビニヨンの娘たち≫に似せた作品はいくらでも作れます。
しかし、その絵には≪アビニヨンの娘たち≫と同じ評価は得られないと思います。そこに「何を表現したいのか」という想いがないからです。
みなさまもアート作品から多様な「リアルさ」を見つけてみませんか?